これまでの活動実績 / 映画祭レポート2014

日本アニメーション界の巨匠「高畑勲監督特集」

映画祭レポート

 23日の午後は、今年の目玉のひとつ「高畑勲監督特集」。チケットが発売後の1週間でほぼ完売した話題の企画です。会場は、親子連れやカップル、女子高生グループなど幅広い年齢層の映画ファンで埋め尽くされました。 一本目の上映作品は、戦時中に両親を失った14歳の兄と4歳の妹の姿を描いた高畑監督の代表作のひとつ『火垂るの墓』(1988年)。続いて休憩を挟み、昨年公開された大ヒット作『かぐや姫の物語』(2013年)が上映されました。
 そして、観客の皆さんが待ちに待った高畑勲監督のトークショー。司会は、東海ラジオパーソナリティーの小島一宏さんです。会場からの熱い拍手に迎えられ、高畑監督が登場。これまで行われた同映画祭のポスターを眺めながら、「映画に夢中になったのは、岡山県に住んでいた高校の二年生の頃からです。
当時は映画を3本立てで上映する名画座に通っていました」「好きな俳優は、小津安二郎作品における原節子さん、淡島千景さん、海外だとジェラール・フィリップやジャン・ギャバン、ジョン・ウェインですね」とお話くださいました。
 今年映画祭で上映された映画の中では、特にマルセル・カルネ監督の『天井桟敷』(1945年)には思い入れがあり、繰り返し鑑賞されたとのこと。若い頃に、同映画の脚本を担当したジャック・プレヴェールに傾倒していた高畑監督。プレヴェールはフランスを代表する脚本家であり、また詩人としても有名です。高畑監督は日本で出版された彼の詩集『ことばたち』の翻訳も担当されています。
 「日々の中に喜びを見つけ出して生きていく。彼からは学んだのは、日常が一番大切であるということです。彼の言葉は生きていく上で非常に役に立ちました」と発言されるなど、人生においても大きな影響力を与えてくれた存在のようです。映画を目指すようになったのも彼の影響があったとおっしゃいます。
 高畑監督は大学入学後に映画研究会に入り、映画のエキストラなどを経験。映画の撮影現場を見て思ったのは、「臆病者の内気な人間はこんな業界に入ることはできない」。しかし、プレヴェールが脚本したポール・グリモー監督の『やぶにらみの暴君』(1951年)を観て、「アニメーションでこのような表現できるのか」とその可能性に驚かされたそうです。
 実は、アニメーションの監督として活躍してから、実写映画の監督をやってみないかとのお誘いがあったものの、全て断ってきたとのこと。その理由を、「アニメーションは、決断するのに一拍置くことができるけれど、実写は一瞬にして決断しなくてはならないからだ」と説明してくださいました。
 トークの後半では、当日上映された2つの作品についての裏話を披露。  『火垂るの墓』は、『となりのトトロ』との同時上映が条件として制作されたものの、当時は、「『となりのトトロ』の後に主人公が死んでしまうような映画を上映していいのか」「子供にあのような映画を見せていいのか」と悩まれたそうです。最後に、「今は人々が死に触れないように生きているから、疑似体験として映画で「死」を見せてもいいのではないか」との思いに達したとおっしゃいます。
 全編を通して描線水彩画のようなタッチで描かれた『かぐや姫の物語』については、コンピュータの恩恵によって実現できた作品だと断言。「セルアニメで『線』による絵の面白さを出せなかったが、コンピュータの導入により線の持つ力を生かすことができました。また、田辺修(アニメーター)と男鹿和雄(美術監督)という並外れた才能の二人がいなかったら、この映画は実現しませんでした。また、彼らをフォローして皆頑張ってくれた」と語られました。
 最後は会場からのQ&Aに移り、次回作についての質問に、「自分の体力、気力、知力があって、またお金を出してくれる人やプロデューサーが揃えばやりたい具体的な企画はあります。できないかもしれませんが…」と回答。アニメの映画監督を目指す学生さんからの「いい監督になるために素質を教えてください」との問いには、「それは一番わからないですね。僕自身は素質がないと思ってきましたから。宮崎駿はすごい素質がある、天才なんです。だけど、天才を見ていていると天才とは違うものを作りたくなっちゃう訳ですよね。それは本当に面白い。僕も自分には素質がないのではないかと自問自答し続けたけれど、辞めずにやってこられたのには二つ理由があります。ひとつは、好きだということ。もうひとつは、自分がひとつやったことから前進していると、また次の前進ができるかもしれない、それがバネになって次の道が開けるかもしれないと思えたからです。人との比較ではありません。自分自身の前進ですよ」と励みになる言葉をいただきました。
 そして、盛大な拍手と共に、一時間を超える熱いトークは終了しました。

text by 西田 佐保子