映画祭レポート2016

映画祭レポート#6 11/23(水・祝) 片渕須直監督特集

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 多くの映画批評家から大絶賛を受け、テレビ・ラジオなどの様々なメディアで紹介され話題沸騰中の映画『この世界の片隅に』を監督した片渕須直監督をフィーチャーするこの企画。
 この企画は、当映画祭の実行委員であり、映写チームの関根響一さんの熱い想いによって実現したものだそうです。
 2009年公開の『マイマイ新子と千年の魔法』を観て、作品のとりこになった関根さんは、応援団として上映会場の確保に奔走し、吉祥寺にあったバウスシアターでの上映とイベントも実現させたそうです。
 当映画祭の実行委員になり、今年『この世界の片隅に』が公開されることを知り、ぜひ多くの方に片渕監督作品の魅力を伝えたいと今年の上映作品に推薦し、見事、その想いが開花しました。

 さて会場は、チケットは全席前売券の段階で完売したということで、上映会場はぎっしり満員でした。

バージョン 2

 また今回の企画では、会場ロビーに、『この世界の片隅に』絵コンテ集・公式ガイドブック・キーホルダーなどが買える物販コーナーが設けられ、先着20名様限定でなんと、片渕須直監督の直筆サイン会に参加できるとのこと。ブースには上映前からお客様の長い列が出来ていました。
 まず、開演前に、関根さんが登場し、この映画祭の目的などについて、お話がありました。そして、お客様の拍手の中、2001年公開の片渕須直監督作品『アリーテ姫』上映が始まります。
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上映前の会場を見渡すと、中学生ぐらいの方からご年配の方まで幅広い層のお客様が多くいらっしゃいました。アニメーション映画の受容の幅広さを改めて感じました。
 「構想8年、制作3年」と言われている本作からは、片渕須直監督のアニメーションに対するこだわりが随所に感じられます。
「アリーテ姫」

 ゆったりとしたテンポのストーリー。キャラクターや舞台装置が持つ寓意性。デジタル制作なのに、セルアニメのようなタッチ。フィルムで見るのにぴったりの作品でした。
 主人公のアリーテ姫が、いわゆる「背が高くて、色白で、美しい」ステレオタイプなお姫様ではないのも印象的でした。
 また劇中には、「千年の魔法」「世界の片隅」というセリフがあってびっくり。
 (ははぁー、片渕監督はこのころから次回作の構想を練られていらっしゃったのか・・・)なんて思っていましたが、当時は「マイマイ新子」も「この世界の片隅に」も原作すら未発表! もしかして片渕監督、魔法使いボックスのように「予言」を聞いていらっしゃったんでしょうか。

 次の上映作品は2009年公開『マイマイ新子と千年の魔法』。
「マイマイ新子と千年の魔法」
 転校してきた引っ込み思案の女の子・貴伊子と額にマイマイ(つむじ)を持つ空想好きな女の子・新子。
 都会のお嬢さんと田舎の腕白少女2人の「ガールミーツガール」の物語に、周囲の大人たちの事情や町が持つ1000年の歴史が重なり、やがて2人は互いを支え想い合う相棒のような存在になっていきます。
 劇中では田舎に暮らす子ども達の遊びがたくさん出てきます。とりわけ印象的だったのが、用水路をせき止めて水遊びするシーン。最初は板切れで溜めた水を一気に放出して遊ぶだけだった2人は、クラスメイトや高学年の男子と協力して小さなダムまで作ってしまう。みんなで泥だらけになりながら作ったこのダムは物語においても重要な場所になっていきます。
 物語の舞台は山口県防府市。登場人物たちはみな山口弁を喋っています。山口出身の私は、新子たちを観ていると、懐かしくどこか照れくさい思いがしました。
 少年時代の追憶はもちろん、新子たちの持つ、思わぬ力強さが胸を打つ本作。上映後、来場者の方々の多くも目元を拭っていたのが印象に残りました。

 さぁ、いよいよお待ちかねのトークショー。片渕須直監督と聞き手であるライターの廣田恵介さんがご登壇され、場内は大きな拍手に包まれました。廣田さんは「マイマイ新子」上映署名活動を始めた方で、この運動によって得られた反響が「この世界の片隅に」のクラウドファンディングにも繋がっています。

 まずは『アリーテ姫』。
 プロデューサーの田中さんから片渕須直監督の手元に原作が届いたのは劇場公開の7、8年前だったそうです。この作品の制作チームは、片渕監督も制作に関わった『魔女の宅急便』制作メンバーが解散後に再結成して誕生したスタジオ4℃。当時出来立てのスタジオ4℃は実は三鷹にあったプロデューサーの田中さんのお家にあったという裏話もありました。
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 コンピュータで色をつけていくという初のデジタル制作作品であった『アリーテ姫』。しかし片渕須直監督曰く、この物語のテーマは「手で何を作れるか」だったそうです。
公開中の映画『この世界の片隅に』は主人公が描いた絵の世界が出てきたりしますが、基本的には現実の世界。一方、『アリーテ姫』はその全てが絵の中の世界。「絵の中の世界なんだからどんな色を使ってもいいんじゃないか」と片渕監督は考えました。だから、色づかいも独特なものになったんだとか。また、小さい絵を拡大して背景に使っている理由も、絵のような質感を強調したかったそうです。

 そして『マイマイ新子と千年の魔法』。
 なんと、映画の原作『マイマイ新子』(髙樹のぶ子)には「千年の魔法」についての描写はないそうで、 びっくり! なぜ原作にない設定を映画に足したのか、と廣田さんがまず質問。
 「アニメーションは想像力について語る必要があると思うんです。だから、新子が想像する世界、千年前の世界が必要でした。あと、(監督自身が)千年前をイメージするのは面白そうだと思ったから(笑)」
 片渕監督は、舞台となった山口県防府市でのロケハン前に発掘調査報告書を繋ぎ合わせて大きな地図に作ろうとしたそうです。思った以上に発掘が進んではいなかったために完全な地図にはならなかったそうですが、奈良時代から現代への移り変わりがなんとなくわかったんだとか。片渕監督、尋常じゃない想像力です。

 ここで、『この世界の片隅に』の予告編をスクリーンにて上映。
 片渕須直監督がご覧になっている間、何度もうなずいているのが印象的でした。来場者の半分以上の方が既に鑑賞済みのようでしたが、予告編が終わるとみなさん大拍手。まだご覧になってない方に廣田さんが「魂が持ってかれる作品ですので是非見てください」と太鼓判。

 『この世界の片隅に』刈谷さん・『マイマイ新子と千年の魔法』吉岡さんとバーカリフォルニアの女の役を演じた声優のたちばなことねさんがサプライズでご登壇。
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 たちばなさんは片渕監督について「こだわりがすごい。だからこそ、全部丁寧に教えてくださる。ありがたいです」と褒め、監督は隣で照れ笑いを浮かべていました。
 恒例の質問コーナーでは、「なぜあんなにセリフが自然なのか」「クラウドファンディングへのこだわりとは」「空の描き方の違い」などの質問に片渕監督が丁寧に答えてくださいました。
 「来年も映画館で『この世界の片隅に』は見られます」という廣田さんの力強い宣言で、名残惜しまれながらもトークショーは終了。サイン会もつつがなく終わり、片渕監督は笑顔で帰っていかれました。本当にありがとうございました。
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Text by 寺田空