映画祭レポート2016

映画祭レポート#2 11/19(土) 天文・科学情報スペース連携企画 新海誠監督特集

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『星を追う子ども』

 日本人の9人に1人が劇場に足を運んだという、映画界に残る社会現象を巻き起こした「君の名は。」。今回の天文・科学情報スペース連携企画は、その立役者である新海誠監督の2011年公開作品「星を追う子ども」の上映で始まりました。

「星を追う子ども」

 雨が降っていたのにもかかわらず、会場は満員。お年寄りからご家族連れの方まで幅広い層のお客様がご来場されていました。チケットは販売開始直後に完売したというのもうなずけます。
 来場されたお客様にお話を伺ったところ、上映開始時間の30分前からいらっしゃっていた男性は「ほしのこえ」から新海誠監督の大ファンだそうで、新海作品がフィルムで楽しめる今日の企画について「滅多にない機会だから嬉しい」と顔をほころばせていらっしゃいました。(実は私も高校時代からのファン。密かにドキドキしていました)

 がちゃん。からからから・・・(映写機の音)
 熱心に、夢中で、スクリーンを見つめるみなさん。(と私。)
 からからから・・・がちゃん。からからから・・・

 上映が始まるまで(このレポートを書くために)メモをたくさんとらなきゃ・・・と思っていたのですが、『星を追う子ども』から漂うノスタルジックな雰囲気と、背後から聞こえてくる心地よい35mmフィルム映写機の回転音に誘われた私は、結局上映終了までスクリーンの向こうの世界に没入してしまいました。

 「生と死」が物語上で大きなポイントになっているこの作品。好きな人が死んでしまったことを少女が受け入れるまでの、心身ともに成長していく過程がとても丁寧に描かれています。場内は、そんなアスナを優しく見守っているかのごとく、終始暖かい空気に包まれていました。上映後、皆さんがどんな感想を話されているのか気になり、耳をそばだてていると、そのどれもが「よかったねー」「久々に見たらまた違った面白さ」「ほんと絵が綺麗だよね」などの声が多く、「フィルムで見ると映像のちらつきとかがあっていいね。レコードみたいに味があって」とおっしゃっていた方には、ほんとうですよね!と、思わず話しかけたい気持ちに。

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『新海誠監督トークショー』

 スーパーバイザー鶴田法男監督によるゲスト紹介ののち、進行役である国立天文台天文情報センターの内藤誠一郎さんとメインゲスト新海誠監督がご登壇され、割れんばかりの拍手に会場が湧きました。
 「みなさん初めまして。アニメーション監督の新海誠と申します。本日は寒い中わざわざ足を運んで頂きありがとうございます」と、ご挨拶をいただき、いよいよトークショースタートです。

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 切ない恋愛がモチーフとなっている新海作品。なんでも、監督ご自身がそのシチュエーションが大好きなんだとか。「性癖と言ってもいいかもしれないです」という新海監督の言葉で会場は大笑い。また新海監督は、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を例に挙げながら、「好きな人がいなくなることによって生じる自分への巨大な問いかけ」も作品にとって重要になるとおっしゃっておられました。来場者の皆さんは、監督のフェテシズムにも近い(!?)、作品テーマへの想いを聞いて、ますます興味津々のご様子で耳を傾けていらっしゃいました。

 新海作品には「雲のむこう、約束の場所」や「星を追う子ども」など異世界を介在した恋愛を描く作品と、「秒速5センチメートル」のようにSF的要素を廃した作品があります。そのどちらのタイプでも、新海監督が一貫して描きたいことは「物語の平行世界性」だそうです。平行世界というのは、自分とよく似た人の世界が現実とは別に、無数に存在するのではないかという説のこと。新海監督はよく、「アニメーターになっていなかった自分」「東京に出てこなかった自分」など様々な可能性を考えることが多く、そんな平行世界的思考が物語作りにも当てはまるんだとか。「君の名は。」もまさに新海監督の平行世界的思考が光る作品です。「自分が女の子だったらどうするかな」「もしあの災害の現場にいたら・・・。」
また、新海監督から内藤さんに「先端宇宙論において平行世界はどれほどの現実性をもっているんですか?」とご質問なさる場面もありました。

 ラブレターを書くように作品を作っているという新海誠監督。「ラブレターは、『私があなたをどんな風に愛しているか』を伝えるもの。脚本は『私が世界をどんな風に愛しているか』というものだと思うんです」

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 『君の名は。』製作時、RADWIMPSの野田洋次郎さんに脚本を送ったら、「前前前世」と「スパークル」という最高のラブレターが返ってきたという裏話も。
 「みなさんもラブレター書いたことありますよね?」という新海監督の質問にみなさんウンウン頷いておられたのも面白かったです。

【来場者の方による新海監督への質問コーナー】
 「それでは何か質問のある方はいらっしゃいますか?」と内藤さんが呼びかけると、すぐにたくさんの手が上がりました。「食事シーンへのこだわりは?」「同じイニシャルの持つ意味とは?」などかなりの新海ファンでいらっしゃることが伝わってくる質問も多く、新海監督は一つ一つ丁寧に答えていらっしゃいました。また、「好きな食べ物はなんですか?」という質問に食い気味で「お酒です」と返し、会場はまた大笑い。終了予定時間になっても質問が途切れず、「せっかくなので5分延長!」という鶴田監督の粋な計らいには、会場から思わず拍手が起こっていました。

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 「今日はお付き合いいただき、ありがとうございました」と最後まで謙虚な新海誠監督を盛大な拍手で、そして名残惜しげに見送り、トークショーは無事終了。お客様の中には、一生の思い出になったとおっしゃっている方もおられました。
 ユーモアとファンタジーの溢れる新海誠監督のお人柄に、感動しっぱなしの40分間。本当に、幸せなひとときでありました。

『雲のむこう、約束の場所』

 トークショーの熱も冷めやらぬままですが、特集上映は続きます。「雲のむこう、約束の場所」はタイトル通り、雲の、そして空の描写が圧倒的に美しい作品です。ヒロキたちが生きている日常的な風景が描かれる前半と、サユリの夢の中や戦闘シーンなどが幻想的でスペクタクルな光景が広がる後半。「ほしのこえ」で話題を呼んだ独特の美しい風景描写が、この初長編劇場作品にて「新海美術」として確立されました。
 現実と虚構が混ざり合う世界。幻想的で、しかし現実感のある景色は『君の名は。』の片割れ時のようにも思えます。眠っているサユリがさまよっていた「誰もいない世界」は本当に恐ろしかった。サユリが早くあの世界から抜け出して、ヒロキと再会するのを願う一方、「好きな人がいなくなることが好きなんです」というトークショーでの新海誠監督の言葉が胸の中でリフレインしていました。

「雲のむこう、約束の場所」

 タクヤとヒロキがヴェラシーラを作るシーンでの、場内の空気感も素敵でした。廃線になった駅の倉庫で、機械油まみれになりながら必死に飛行機を作る2人の様子を、場内全員でじいっと見つめている。使命や情念にかられて創作に没頭する姿に私は新海誠監督の姿をかさねていました。おそらく皆さんも、そこに誰かの姿を見ていたはずです。

 2004年公開の『雲のむこう、約束の場所』は第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞しています。上映後の場内は、世界観にどっぷりと浸かっていた方々が現実に戻ってくる時に出る「ほぉーっ」というため息で溢れていました。

『秒速5センチメートル』
  日も暮れ、時刻は6時。来場された方もすこーし疲れはじめられたようで、上映前は背伸びしたり首を回したり簡単なストレッチをしておられる方もいらっしゃいました。

 前作『雲のむこう、約束の場所』から3年。「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の三部構成連続短編である本作では、今までのSF的要素が廃され、少年少女が大人になっていく現実を丁寧に描いています。

「秒速5センチメートル」

 これぞ新海誠監督の、そしてアニメーション映画のマスターピース。春夏秋冬の美しい風景と丁寧な心情描写は、誰もが持つ「初恋が思い出に変わる切なさ」を呼び起こし、心がちぎれるような痛みさえ感じさせます。そして、山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」が傷ついた心に優しく染み込んでくるという・・・。「コスモナウト」がおわった時点で場内を見渡すと、ハンカチで抑えることも忘れて、号泣しておられる方がたくさんいらっしゃいました。私も、刺激されすぎて涙腺が破壊されてしまったのか、上映中涙が止まることはありませんでした。

上映が終わり、しんとした空気。
朝から回り続けていた映写機も、今日はこれでおしまい。長時間、お疲れ様でした。

『言の葉の庭』

 お昼から始まった新海誠特集もいよいよこれで最後。時刻は19時をすぎ、外はもう真っ暗です。「まるで修行ですね」と内藤さんがおっしゃっていたのも頷けるタフなスケジュールですが、シネマカフェで談笑しておられたお客様には「もう疲れたの? 僕はオールナイト上映にもよく行くから全然大丈夫だけど」と言われました。オソルベシ、新海ファンの体力・・・。

 全国23館での封切りながらも、10日後には『秒速5センチメートル』、14日後には『星を追う子ども』の動員数を上回ったというこの作品はこれまでの作品の中でも最大のヒットとなり、話題を呼びました。当作品は、フィルムではなくBlu-rayでの上映です。

「言の葉の庭」

 『雲のむこう、約束の場所』が「空」、『秒速5センチメートル』を「桜」とするならば、『言の葉の庭』は「雨」です。新宿御苑に降りしきる小雨、木々を伝っていく雨粒、水面の波紋、ガラス窓についた水滴。そのどれもが息を呑むほどの美しさと、登場人物の心情を反映する映像的リテラシーを兼ね備えています。また、これまで以上に細部までこだわり抜かれた美術背景からは、リアリティーを超えた「想い」が伝わってきます。

 そして今作品で私が大好きなのが、登場人物であるタカオとユキノのもどかしくてどうしようもないあの距離感。互いが必要なのに、もう一歩が踏み出せない。新海誠監督の丁寧な人物描写のおかげもあって、二人のキャラクターにいつの間にか感情移入しています。ユキノのために奮闘するタカオの姿に胸を打たれながら、「憧れの人のために傷だらけになりたい・・・.」と妙な妄想が広がったりもしました。先ほど見た『秒速5センチメートル』であれだけ泣いた後でしたが、やはりラストシーンではまたもやほろほろ泣いてしまいました。お客様も同じ気持ちだったようで、上映終了後にそっと目元を拭っている方は少なくありませんでした。

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 半日に渡って開催された新海誠特集。さすがに全行程が終わった頃にはお疲れのご様子の方もいらっしゃいましたが、皆さん清々しいお顔をしておられました。お帰りの際「素晴らしかったよ、ありがとう」と声をかけてくださる方もいらっしゃり、心から嬉しくなりました。改めてご来場してくださった皆様、本当にありがとうございました。ボランティアスタッフとして、そして一新海誠ファンとして、一生の思い出となった一日でした。

Text by 寺田空

 

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